fortran66のブログ

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【メモ帳】括弧積など

昔の記事

昔の役に立たない糞記事が何故か検索で上位に来ているようで申し訳ないです。元記事に少し追記しておいたけれどももう少し補足を。
ベーカー・キャンベル・ハウスドルフの公式 - fortran66のブログ

括弧積

角運動量とか Lie 代数で括弧積 [A, B]=AB-BA というのが出てきて、形がきもいので、積なら積らしく中置記号で定義しろよ、とか文句を言いたくなります。犬だったらクンクン匂いを嗅がずにはいられません。

クンクンする代わりに路傍の糞の如く眺めると、これは非可換な二項演算なので代数学の慣例で積と呼んでいるのだなと思われます(可換なら和)。またこれは結合則が成り立たない非結合演算なので、演算の順番を明示せねばならず括弧をつけているのでしょう。[ [A, B], C]/=[A, [B, C] ]

そうであるとすると、もしこの積を中値二項演算子記号(例えば・)で表わすと、( (A・B)・C) /= (A・(B・C) ) のように、いちいち中置記号の他に括弧で演算順序を指定しなければならなくなります。それならば、いっそ演算と括弧を同時に表せばいいんでね?と思いたくなります。そうして括弧積が出てきたのではないかと思います。

もっとも、同じように結合則が成り立たない外積とかでも × で中値記号で書いてますし、 微分演算子 D に至っては D(xy)=(Dx)y + x(Dy) で記号的には結合則が成り立たないのに、中置記号すらなしに出てきています。文意への忖度が要求されます。

これら外積微分演算子の非結合性は、説明なしに電磁気のベクトル解析のところで同時に登場して、うまい具合に初学者を混乱させています。なかなか巧妙なトラップだなと感心します。

これらの演算の結合則からのズレは [[A,B],C] - [A,[B,C]] で見積もられますが、括弧積はヤコビの恒等式で表わされる関係で [B,[A,C]] に比例するようになっています。それは微分演算子の場合の (Dx)y-D(xy)=-x(Dy) に対応付けられます。 

括弧積は可換則からのズレ、ヤコビの恒等式結合則からのズレとも見なせますが、ヤコビの恒等式が成り立つのは、性質のいい結合則からのズレなのでしょう。

なお \mathrm{ad}(A)=[A, \,\,\,] は、コンピュータ的には二項演算子の第一項を  A に固定した単項演算子化になるんでしょう。カリー化の一種。

BCHの公式の証明に出てくる式

BCH 公式の証明では、 de^A dA の関係式を求めるところがみそになっています。ここで AdA は非可換なので話がややこしくなっています。なお e^AA のべきで定義されているので、[e^A, A]=0で可換です。

導出1

一つの方法では
 e^A A = A e^A から出発して、微小量をとって
(de^A)A+e^AdA=dAe^A+A(de^A)
辺々移行して
 [A, de^A]=e^A(dA)e^{-A}e^A-(dA)e^A
より
\mathrm{ad}(A)de^A = (\mathrm{Ad}(e^A) - 1) dA e^A
これから \mathrm{Ad}(e^A)=e^{\mathrm{ad}(A)} の関係を使って
de^A = {e^{\mathrm{ad}(A)}-1 \over \mathrm{ad}(A)} dA e^A
で、 de^A dA の関係式を求めています。

ここで、\mathrm{ad}(A)e^{\mathrm{ad}(A)}-1 は、おなじ A で展開される式なので可換で順番によらないため、普通の割り算の形で書いても大丈夫です。

この式の意味を考えるため、別の方法での導出も見てみます。

導出2

天下り式に \exp(A+dA)\exp(-A) を考えます。
この式は、以下の式と形式的に同じです。
1+\int_0^1{d\over dt} \exp(t(A+dA))\exp(-tA)dt
微分して、
= 1+\int_0^1 \exp(t(A+dA)) dA \exp(-tA)dt
dA は微小量として二次以下を捨てるとすると、
1+\int_0^1 \{\exp(tA) dA \exp(-tA) + \mathcal{O}(dA^2)\} dt
よって、
\simeq 1+\int_0^1 \mathrm{Ad}(\exp(tA))(dA)  dt
つまり、
= 1+\{\int_0^1 \exp(t\mathrm{ad}(A))dt\}dA
積分して、
= 1+{e^{\mathrm{ad}(A)} -1 \over \mathrm{ad}(A) } dA
と求まります。

ここで最初の式にもどって形式的に右から e^A をかけると、
 e^{(A+dA)}\simeq e^A+{e^{\mathrm{ad}(A)} -1 \over \mathrm{ad}(A) } dA e^A
と書けます。これを導出1の結果と見比べると、第二項が d(e^A) に対応していることが分かります。AdA の非可換性のために、めんどくさい形になっていますが微分量を求めていたことがはっきりします。

 {e^x-1 \over x} について

上式中で  {e^{\mathrm{ad}(A)} -1 \over \mathrm{ad}(A) } という意味不明な式が出てきてます。 {e^x-1 \over x} という形の式のについて、少し意味を考えてみます。

とりあえず分母に \mathrm{ad}(A) が出てきて気持ち悪いのですが、分子を定義に従ってべき展開すれば通分できるので問題ありません。

さて \mathrm{ad}(A)\equiv[A,\,\,] は一種の微分演算子と考えられるので、やや唐突ですがこれの替わりに微小量 h のかかった微分演算子 h\mathrm{D} が関数 f(x) に作用している場合を考えます。すると以下のようにあらわせます。

 {e^{h\mathrm{D}}-1 \over h\mathrm{D}} f(x)

ここで、e^{h\mathrm{D}}f(x)e^{h\mathrm{D}} が推進演算子なのでべき展開すれば形式的にテイラー展開に対応していて、e^{h\mathrm{D}}f(x)=f(x+h) に置き換えられます。したがって、上記の式は
 {1\over D}{f(x+h)-f(x) \over h}
と変形できます。ここで  {1\over D}微分の逆なので演算子法的には積分を表します。つまり、微分の極限を取らない有限でやめたやつを積分することを意味しているようです。(先に積分して微分モドキも可)

ベルヌーイ数の母関数の意味

ところで、実際の BCH の証明ではこの演算子の逆を用います。つまり  {x \over e^x-1} の形が出てきます。この式はベルヌーイ数の母関数になっている、ちょくちょく出てくる意味不明な式です。

形式的には、 x=h\mathrm{D} の時、上述の「積分微分モドキ」の逆演算子なので、「微分+リーマン積分の短冊を無限小にしないで有限でやめる演算」を意味していると思われます。リーマン積分の短冊を有限幅で止めるのは数値積分的な状況に対応していると考えられます。

ベルヌーイ数が、オイラーマクローリン展開を通じて、積分を短冊形の和で近似した時の補正項として出てくるのは、こんな意味付けがあるのかもしれません。

計算数学夜話―数値で学ぶ高等数学 (1978年)

計算数学夜話―数値で学ぶ高等数学 (1978年)

↑[追記:H30/3/17]これにありました。


今後の課題w

それがなぜ、この非可換演算子の微小変化で出てくるのか、いまいちわかりませんが、微小変化が0の極限ではなく、小さいけど極限というほどではない量のためかもしれませんw これは今後の課題とします。