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【メモ帳】群行列式

行列式 group determinant

Frobenius が群の指標の研究を始めたのは、Dedekind から群表の要素を  x_1 とか変数に置き換えて行列式を取ると、群の既約表現に対応する小行列の行列式の次元乗の積の形になるようだと手紙を受け取ってからとのことらしいです。

読んだだけではよく分からないので、計算機を使って二次と三次の対称群  S_2, S_3 で見てみたいと思います。

対称群

あみだくじに対応するもので、置換群とも言います。

S2

位数 2!=2 で、二個の元を持ちます。一つは単位元、もう一つは二個のものを交換する元です。

群表は

e (12)
e e (12)
(12) (12) e

となります。これを Dedekind に従って、e を x1, (12) を x2 に置き換えて

e (12)
e x1 x2
(12) x2 x1

のように書いて、変数の部分を行列と思って、行列式をとってみます。

Wolfram Language にて

S2={{x1, x2},{x2,x1}}
{{x1, x2}, {x2, x1}}
MatrixForm[S2]
Output
Det[S2]
Output
Factor[%]
Output

すると、行列式 (x1+x2), (x1-x2) の積にまとめられました。Dedekind を信じれば、二つの1次元表現に対応する行列式  (x1+x2) (x1-x2) が得られたことになります。

これは、e+(12) と e-(12) の対称表現と反対称表現にそれぞれ対応するものになっています。Young 図の記法で書けば [2], [11] に対応する規約表現に相当しています。

S3

次に調子に乗って三次の対称群でも試してみます。位数は 3!=6 で六次元の行列が出てくることになります。

追記:令和3年9月3日 ここでの群表の定義が普通と違っているので書き直します。結果は変わりません。

群表を書くと、

x1 x2 x3 x4 x5 x6
e (12) (23) (13) (123) (132)
e e (12) (23) (13) (123) (132)
(12) (12) e (123) (132) (23) (13)
(23) (23) (132) e (123) (13) (12)
(13) (13) (123) (132) e (12) (23)
(123) (123) (13) (12) (23) (132) e
(132) (132) (23) (13) (12) e (123)

Dedekind に従って置き換えて、

x1 x2 x3 x4 x5 x6
e (12) (23) (13) (123) (132)
e x1 x2 x3 x4 x6 x5
(12) x2 x2 x5 x6 x3 x4
(23) x3 x6 x1 x5 x4 x2
(13) x4 x5 x6 x1 x2 x3
(123) x5 x4 x2 x3 x6 x1
(132) x6 x3 x4 x2 x1 x5

これの変数部分を 6x6 の行列とみて行列式を計算してみます。

Wolfram Language にて

S3={{x1,x2,x3,x4,x5,x6},
    {x2,x1,x5,x6,x3,x4},
    {x3,x6,x1,x5,x4,x2},
    {x4,x5,x6,x1,x2,x3},
    {x5,x4,x2,x3,x6,x1},
    {x6,x3,x4,x2,x1,x5}}
{{x1, x2, x3, x4, x5, x6}, {x2, x1, x5, x6, x3, x4}, {x3, x6, x1, x5, x4, x2}, 
 
>   {x4, x5, x6, x1, x2, x3}, {x5, x4, x2, x3, x6, x1}, {x6, x3, x4, x2, x1, x5}}
MatrixForm[S3]
Output
Factor[Det[S3]]
Output

この結果をみると、三次の対称群は二つの1次元表現と一つの二次元表現に分かれるようです。一次元表現の方は、(x1+x2+x3+x4+x5+x6) すなわち (e+(12)+(23)+(13)+(123)+(132) ) の全対称表現 ( [3] ) と、 (x1+x5+x6-x2-x3-x4) すなわち (e+(123)+(132) - (12) - (23) - (13) ) の反対称表現 ([111]) に書けて、もっともな気がします。一方、二次元表現 ([21]) の方は行列式(x1^2 + x5^2 + x6^2 -x1x5 - x1x6 - x5x6)-(x2^2+x3^2+x4^2-x2x3-x2x4-x3x4) となって、素朴には元の2*2行列の形が思い浮かびません。Frobenius は、この辺から頑張って考えたのでしょうか?

以下の記事を見ると、Dedekind は一の三乗根をつかってもう少しきれいにまとめたようですが、あまり助けにはなりません。[追記] 元々 Dedekind は超複素数の様な体の拡大で行列式因数分解出来てそれによって一次元表現に還元できるのではないかという考えでいじくりまわしてうまくいかず、Frobenius に助けを求めたようです。

PDF 直リン The Origin of Representation Theory - UConn Math

Littlewood の本では The Frobenius Algebra の章でいきなり行列を書き下していますが(Frobenius Algebra の定義に従って我慢強く計算すればでます)、簡便な具体的求め方は The Symmetric Group の章で Young の対称子を利用した方法で示されています。

それによれば(記号や定義をここのものに直してやると、規格化因子も適当にいれて)

1/3( e+(12)-(23)-(132) ) 1/3( (13)-(23)+(123)-(132) )
1/3( (13)-(12)+(132)-(123) ) 1/3( e-(12)+(23)-(123) )
x1+x2-x3-x6 x4-x3+x5-x6
x4-x2+x6-x5 x1-x2+x3-x5

となって、この 2*2 行列の行列式を求めると、ここでの群行列式の結果を再現します。

Wolfram language にて

Q={{x1+x2-x3-x6,  x4-x3+x5-x6}, { x4-x2+x6-x5, x1-x2+x3-x5}}
Output
MatrixForm[Q]
Output
Factor[Det[Q]]
Output

寝言

Dedekind は巡回群などでも群行列式を計算したようですが、その式を見ると佐武一郎の「線形代数学」で見たことがあるような式だったので、本を引っ張り出してみると確かにあって、行列式の章で文脈も無くいきなり出てきて、ヘンテコな行列式を計算し始めてうんざりさせられるばかりだったのを思い出しました。今見ると群行列式と関係するとも書いてありましたw うへw