ウイリアム・ブレイクとグノーシス派の奇妙な接近
連休の暇つぶしに、浮動小数点数の計算に関して非結合代数がヒントを与えてくれないかと、An Introduction to Nonassociative Algebras なるものを眺めて見たものの、こちらの方向にはヒントはなさそうだということ以外よく分からなかったので、かわりに絵でも眺めることにしました。
www.gutenberg.org
というわけで Kenneth Clark の The Romantic Rebellion を斜め読みしていましたが、William Blake の章を読んでいたら、産業革命に向かうイギリスで醜悪な物質文明を嫌って幻視に溺れるブレイクのマジキチ系のヤバさに気持ち悪い感を覚えてしまいましたw
The Romantic Rebellion: Romantic Versus Classic Art
- 作者: Sir Kenneth Clark
- 出版社/メーカー: John Murray
- 発売日: 1986/03/20
- メディア: ペーパーバック
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この気持ち悪さは、チャールズ・ディケンズの骨董屋に出てくる産業革命期のイギリスを借金取りに追われてさまよう、哀れな老人のようでありつつ孫娘のお守りのコインも奪って博打を打ちにゆく(かつ負ける)ギャンブル狂とか、熔鉱炉の火の中に全世界を見出す不気味な男とか、はじめは滑稽でも後からじわじわ来る類の暗い救いの無さです。
ブレイクと言えば、大昔にサキ短編集の中で「夜中にブレイクの『無心の歌』を大声で朗読する」とかいう一節があって、妙にツボに入ったのですが、それで興味を持って美術の教科書や画集を見てみると、確かに夜中に叫び出す系には向いているけれども、あまり好きになれない系の絵だなと思ったことを覚えています。
- 作者: サキ,中村能三
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1958/03/18
- メディア: 文庫
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ただ Newton という表題の、ニュートンをコケにしたような絵は好きで、古典力学を扱う時は、この絵が心に浮かんできて愉快を覚えます。
Urizen という、ブレイクの創作した唯物論的な造物神の様な存在がいるのですが、これまたコンパスで世界を設計しているように描かれています。中世絵画に元ネタがあるようなのですが、元々コンパスは理知的な設計の象徴になっているようです。
そういえば、支那の墨子や荀子などにも、比喩的に規矩(コンパスと定規)が出てきてくるので、昔の人の共通イメージなのかもしれません。
ブレイクは Urizen を、唯物論的な、悪の象徴のようなものとして嫌っていたようですが、これは古代地中海世界のグノーシス派の宗教教義を連想させます。彼らも、従来主神とされてきた造物主を、じつは精神を唯物論的に物質界に閉じ込めて抑圧する悪の存在だったとみなしたようです。
- 作者: 筒井賢治
- 出版社/メーカー: 講談社
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- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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唯物論的な考えによって、自然なものを抑圧すると、反動で本能の領域から時代や所や個人を超えて、変なものが湧いてくるようです。
建国記念日や天皇誕生日、正月・節分・ひなまつり等の年中行事や、春・秋分点・夏至・冬至のような適度に世俗化した行事を大切にして、変なものが湧いてこないようにしたいものです。