BNF 記法はエミール・ポストにインスピレーションを得たことに関する記憶違い
以前紹介した Backus の講演で Backus-Naur Form は、その頃聞いた Martin Davis の計算可能性の講義中の Emil Post に関する紹介から得たと言っているのですが記憶違いのようです。
この講演を論文にしたもので、それ以前の記憶違いを訂正していますが、新しい記憶違いを生み出していたようです。
In a recent course on computability given by Martin Davis, I had been exposed to the work of the logician Emil Post and his notion of a "production."
このように述べていますが、M. J. Lorenzo 著 Abstracting Away the Machine: The History of the FORTRAN Programming Language 23章 p.230 によると Martin Davis は当時まだ計算可能性に関する講義をしていないそうです。Martin Davis の推測では、Emil Post と Noam Chomsky の仕事について Fortran 開発初期メンバーだった Richard Goldberg との議論の中で知ったのではないかということです。
この本は、出版されている資料を元にもっぱら時系列的に Fortran の歴史を追ったもので巻末の resources も充実しています。若干冗漫な気がしましたが、面白いエピソードなどが網羅してあるように思います。話は初期の部分が大部分で、Fortran 95 以降の話は基本的にはありません。
以前書きましたが C. P. Lecht 著 THE PROGRAMMER'S FORTRAN II AND IV: A Complete Reference に Robert Bemer による序文があって興味深いエピソードを書いているのですが、それは参照していないようでした。
Robert Bemer による序文に、最初期の思い出話が載っている。FORTRAN 以前の言語、FORTRAN 開発グループ初期主要メンバ、IBM 650 用 FORTRANSIT 命名の由来、XTRAN、 他社製 FORTRAN その他。
When FORTRAN Was Queen
Jane Pejsa 著の昔の思い出を書いた薄い本で、実の所あまり FORTRAN の話はありません。全体にややまとまりに欠けていますが冷戦期の 1950 年代の米社会の一端が垣間見れます。ベル研でトランジスタが発明された時の騒ぎや、電話交換手などの労働争議に出なくていいように自動交換機などを見せられつつ管理職に昇進させられる話など鮮やかに書かれています。Sperry Rand に買収された頃の Univac 1103A 計算機にまつわる話もあって興味深いのですが、結婚生活の話などが出て来て脱線してゆきます。